には働手が多勢ゐて自分は閑人なところから、毎日考へてゐた所へ、幸ひと二人の問題が起つたので、構はずにや置かれぬから何なら自分が行つて呉れても可いと、不取敢氣の小さい兼大工を説き落し、兼と二人でお定の家へ行つて、同じ事を遠※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]しに諄々《くどくど》と喋り立てたのであるが、母親は流石に涙顏をしてゐたけれども、定次郎は別に娘の行末を悲觀してはゐなかつた。それを漸々《やう/\》納得《なつとく》させて、二人の歸りの汽車賃と、自分のは片道だけで可いといふので、兼から七圓に定次郎から五圓、先づ體の可い官費旅行の東京見物を企てたのであつた。
軈てお八重も新太郎に伴れられて歸つて來たが、坐るや否や先づ險《けは》しい眼尻を一層險しくして、凝《ぢつ》と忠太の顏を睨むのであつた。忠太は、お定に言つたと同じ樣な事を、繰返してお八重にも語つたが、お八重は返事も碌々《ろく/\》せず、脹《ふく》れた顏をしてゐた。
源助の忠太に對する驩待振《くわんたいぶり》は、二人が驚く許り奢《おご》つたものであつた。無論これは、村の人達に傳へて貰ひたい許りに、少しは無理までして外見《み
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