五人が向ひ合つたので、二人共三膳とは食へなかつた。此日は、源助が半月に餘る旅から歸つたので、それ/″\手土産を持つて知邊《しるべ》の家を※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]らなければならぬから、お吉は家が明けられぬと言つて、見物は明日に決つた。
二人は、不器用な手つきで、食後の始末にも手傳ひ、二人|限《きり》で水汲にも行つたが、其時お八重はもう、一度經驗があるので上級生の樣な態度をして、
『流石は東京だでヤなつす!』と言つた。
かくて此日一日は、殆んど裏二階の一室で暮らしたが、お吉は時々やつて來て、何呉となく女中奉公の心得を話してくれるのであつた。お定は生中《なまなか》禮儀などを守らず、つけつけ言つてくれる此女を、もう世の中に唯一人の頼りにして、嘗て自分等の村の役場に、盛岡から來てゐた事のある助役樣の内儀《おかみ》さんより親切な人だと考へてゐた。
お吉が二人に物言ふさまは、若し傍で見てゐる人があつたなら、甚※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《どんな》に可笑《をか》しかつたか知れぬ。言葉を早く直さねばならぬと言つては、先づ短いのか
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