囘」、第4水準2−12−11]した。
『お定さん、細え柱だなす。』と大工の娘。奈何樣《いかさま》、太い材木を不體裁に組立てた南部の田舍の家に育つた者の目には、東京の家は地震でも搖れたら危い位、柱でも鴨居でも細く見える。
『眞《ほん》にせえ。』とお定も言つた。
 で、昨晩《ゆうべ》見た階下の樣子を思出して見ても、此室の疊の古い事、壁紙の所々裂けた事、天井が手の屆く程低い事などを考へ合せて見ても、源助の家は、二人及び村の大抵の人の想像した如く、左程立派でなかつた。二人はまた其事を語つてゐたが、お八重が不圖、五尺の床の間にかけてある。縁日物の七福神の掛物を指さして、
『あれア何だか知《おべ》だ[#「だ」は底本では「た」]すか?』
『惠比須大黒だべす。』
 二人は床の間に腰掛けたが、
『お定さん、これア何だす?』と圖の人を指さす。
『槌持つてるもの、大黒樣だべアすか。』
『此方ア?』
『惠比須だす。』
『すたら、これア何だす?』
『布袋樣《ほていさま》す、腹ア出てるもの。あれ、忠太|老爺《おやぢ》に似たぜ。』と言ふや、二人は其忠太の恐ろしく肥つた腹を思出して、口に袂をあてた儘、暫しは子供の如く
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