自分も男達と共に坐ると、『お前は女だから。』と言つて、ずっと前の方へ出された。見た事もない小僧達が奧の方から澤山出て來て、鐃《ねう》や太鼓を鳴らし始めた。それは喇叭節の節であつた。と、例《いつも》の和尚樣が拂子《ほつす》を持つて出て來て、綺麗なお姫樣の前へ行つて叩頭《おじぎ》をしたと思ふと、自分の方へ歩いて來た。高い足駄を穿いてゐる。そして自分の前に突つ立つて、『お八重、お前はあのお姫樣の代りにお墓に入るのだぞ。』と言つた。すると何時の間にか源助さんが側に來てゐて、自分の耳に口をあてて『厭だと言へ、厭だと言へ。』と教へて呉れた。で、『厭だす。』と言つて横を向くと、(此時寢返りしたのだらう。)和尚樣が※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]つて來て、鬚の無い顎に手をやつて、丁度鬚を撫で下げる樣な具合にすると、赤い/\血の樣な鬚が、延びた/\臍のあたりまで延びた。そして、眼を皿の樣に大きくして、『これでもか?』と怒鳴つた。其時目が覺めた。
 お八重がこれを語り終つてから、二人は何だか氣味が惡くなつて來て、暫時《しばらく》意味あり氣に目と目を見合せてゐたが、何方《どつち》でも胸に思
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