だつけおんす。』と甘える樣な口調。
『家《え》の方のすか?』
『家の方のす。ああ、可怖《おつかな》がつた。』と、お定の膝に投げる樣に身を恁《もた》せて、片手を肩にかけた。
其夢といふのは恁《か》うで。――村で誰か死んだ。誰が死んだのか解らぬが、何でも老人だつた樣だ。そして其葬式が村役場から出た。男も女も、村中の人が皆野送の列に加つたが、巡査が劍の柄に手をかけながら、『物を言ふな、物を言ふな。』と言つてゐた。北の村端から東に折れると、一町半の寺道、其半ば位まで行つた時には、野送の人が男許り、然も皆洋服を着[#「着」は底本では「來」]たり紋付を着[#「着」は底本では「來」]たりして、立派な帽子を冠つた髭の生えた人達許りで、其中に自分だけが腕車の上に縛られてゆくのであつたが、甚※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《どんな》人が其腕車《くるま》を曳いたのか解らぬ。杉の木の下を通つて、寺の庭で三遍※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]つて、本堂に入ると、棺桶の中から何ともいへぬ綺麗な服裝をした、美しいお姫樣の樣な人が出て中央《まんなか》に坐つた。
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