互ひに辛さうな笑ひを洩らした。
 風呂敷包を持つて裏二階に上ると、お吉は二人前の蒲團を運んで來て、手早く延べて呉れた。そして狹い床の間に些《ちよつ》[#ルビの「ちよつ」は底本では「ちよ」]と腰掛けて、三言四言お愛想を言つて降りて行つた。
 二人限《きり》になると、何れも吻《ほつ》と息を吐いて、今し方お吉の腰掛けた床の間に膝をすれ/\に腰掛けた。かくて十分許りの間、田舍言葉で密々《こそ/\》話合つた。お土産を持つて來なかつた失策《しくじり》は、お八重も矢張氣がついてゐた。二人の話は、源助さんも親切だが、お吉も亦、氣の隔《お》けぬ親切な人だといふ事に一致した。郷里《くに》の事は二人共何にも言はなかつた。
 訝《をか》しい事には、此時お定の方が多く語つた事で、阿婆摺《あばづれ》と謂はれた程のお八重は、始終《しよつちゆう》受身に許りなつて口寡《くちすくな》にのみ應答《うけこたへ》してゐた。枕についたが、二人とも仲々眠られぬ。さればといつて、別に話すでもなく、細めた洋燈《ランプ》の光に、互ひの顏を見ては温《をとな》しく微笑《ほゝゑみ》を交換《かは》してゐた。

      八

 翌朝は、枕邊の
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