、中から胴間聲《どまごゑ》がする。
二人は目を見合して、ニッコリ笑つたが、桶を下して入つて行つた。馬車|追《ひき》の老爺は丁度厩の前で乾秣《やた》を刻むところであつた。
『明日《あした》盛岡さ行ぐすか?』
『明日がえ? 行くどもせア。權作ア此|老年《とし》になるだが、馬車|曳《ふ》つぱらねえでヤ、腹減つて斃死《くたば》るだあよ。』
『だら、少許《すこし》持つてつて貰ひてえ物が有るがな。』
『何程《なんぼ》でも可えだ。明日ア歸《けえ》り荷《に》だで、行ぐ時《どき》ア空馬車|曳《ふ》つぱつて行ぐのだもの。』
『其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《そんな》に澤山《たんと》でも無えす。俺等《おら》も明日《あした》盛岡さ行ぐども、手さ持つてげば邪魔だです。』
『そんだら、ハア、お前達も馬車さ乘つてつたら可《え》がべせア。』
二人は又目を見合して、二言三言|喋《しめ》し合つてゐたが、
『でア老爺《おやぢ》な、俺等《おら》も乘せでつて貰ふす。』
『然《さ》うして御座《ごぜ》え。唯、巣子《すご》の掛茶屋さ行つたら、盛切酒《もつきりざけ》一|杯《ぺえ》買ふだア
前へ
次へ
全82ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング