お定さん、急がねえばならねえす。』
『怎《どう》してす?』
『怎してつて、昨晩《ゆべな》聞いだら、源助さん明後日《あさつて》立つで、早く準備《したく》せツてゐだす。』
『明後日《あさつて》?』と、お定は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。
『明後日!』と、お八重も目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。
 二人は暫し互ひの顏を打瞶つてゐたが、『でヤ、明日《あした》盛岡さ行がねばならねえな。』とお定が先づ我に歸つた。
『然《さ》うだす。そして今夜《こんにや》のうちに、衣服《きもの》だの何《なに》包んで、權作|老爺《おやぢ》さ頼まねばならねえす。』
『だらハア、今夜《こんにや》すか?』と、お定は又目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。
 左《さ》う右《か》うしてるうちに、一人二人と他の水汲が集つて來たので、二人はまだ何か密々《ひそ/\》と語り合つてゐたが、軈て滿々《なみ/\》と水を汲んで擔ぎ上げた。そして、すぐ二三軒先の權作が家へ行つて、
『老爺《おやぢ》ア起きたすか?』と、表から聲をかけた。
『何時まで寢てるべえせア。』と
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