る樣な氣がした。
稍あつて、お八重は、源助さんと一緒に東京に行かぬかと言ひ出した。お定にとつては、無論|思設《おもひもう》けぬ相談ではあつたが、然し、盆|過《すぎ》のがつかりした心に源助を見た娘には、必ずしも全然縁のない話でもない。切《しき》りなしに騷ぎ出す胸に、兩手を重ねながら、お定は大きい目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、言葉少なにお八重の言ふ所を聞いた。
お八重は、もう自分一人は確然《ちやん》と決心してる樣な口吻《くちぶり》で、聲は低いが、眼が若々しくも輝く。親に言へば無論容易に許さるべき事でないから、默つて行くと言ふ事で、請賣《うけうり》の東京の話を長々とした後、怎《どう》せ生れたからには恁※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《こんな》田舍に許り居た所で詰らぬから、一度東京も見ようぢやないか。「若い時ア二度無い」といふ流行唄《はやりうた》の文句まで引いて、熱心にお定の決心を促すのであつた。
で、其方法も別に面倒な事は無い。立つ前に密《こつそ》り衣服《きもの》などを取纒めて、幸ひ此村《こゝ》から盛岡の停車場に行つ
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