、第4水準2−12−11]しにして夜に訪ねたとの事であつた。そして、二時間許りも麥煎餅を噛りながら、東京の繁華な話を聞かせて行つた。銀座通りの賑ひ、淺草の水族館、日比谷の公園、西郷の銅像、電車、自動車、宮樣のお葬式、話は皆想像もつかぬ事許りなので、聞く人は唯もう目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、夜も晝もなく渦卷く火炎に包まれた樣な、凄じい程な華やかさを漠然と頭腦《あたま》に描いて見るに過ぎなかつたが、淺草の觀音樣に鳩がゐると聞いた時、お定は其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《そんな》所にも鳥なぞがゐるか知らと、異樣に感じた。そして、其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《そんな》所から此人はまあ、怎《どう》して此處まで來たのだらうと、源助さんの得意氣な顏を打|瞶《まも》つたのだ。それから源助さんは、東京は男にや職業が一寸見附り惡いけれど、女なら幾何《いくら》でも口がある。女中奉公しても月に賄附で四圓貰へるから、お定さんも一二年行つて見ないかと言つたが、お定は唯俯いて微笑《ほゝゑ》んだの
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