すると、先に知らせに来た若者と、肌脱ぎした儘の新家の旦那とが飛んで出て来て、『医者へ、医者へ。』と叫んだ。男は些《ちよつ》と足淀《あしよどみ》して、直ぐまた私の立つてゐる前を医者の方へ駈け出した。其何秒時の間に、藤野さんの変つた態が、よく私の目に映つた。男は、宛然《まるで》鷲が黄鳥《うぐひす》でも攫《つかま》へた様に、小さい藤野さんを小脇に抱へ込んでゐたが、美しい顔がグタリと前に垂れて、後には膝から下、雪の様に白い脚が二本、力もなくブラ/\してゐた。其左の脚の、膝頭から斜めに踵へかけて、生々しい紅の血が、三分程の幅に唯一筋!
其直ぐ後を、以前の若者と新家の旦那が駈け出した。旦那の又直ぐ後を、白地の浴衣を着た藤野さんの阿母《おつか》さん、何かしら手に持つた儘、火の様に熱した礫の道路を裸足で……
其キツと堅く結んだ口を、私は、鬼ごツこに私を追駈けた藤野さんに似たと思つた。無論それは一秒時の何百分の一の短かい間。
これは、百度に近い炎天の、風さへ動かぬ真昼時に起つた光景だ。
私は、鮮かな一筋の血を見ると、忽ち胸が嘔気を催す様にムツとして、目が眩んだのだから、阿母さんの顔の見えたも不思
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