47−62]弱《かよわ》い體質でも、私は流石に男の兒、藤野さんはキッと口を結んで敏《さと》く追つて來るけれど、容易に捉《つかま》らない。終ひには息を切らして喘々《ぜい/\》[#ルビの「ぜい/\」は底本では「せい/\」]するのであるが、私は態と捉まつてやつて可いのであるけれど、其處は子供心で、飽迄も/\身を飜して意地惡く遁げ※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]る。それなのに、藤野さんは鬼ごッこの度、矢張私許り目懸けるのであつた。
新家の家には、藤野さんと從兄弟同志の男の兒が三人あつた。上の二人は四年と三年、末兒はまだ學校に上らなかつたが、何れも餘り成績が可くなく、同年輩の近江屋の兒等と極く仲が惡かつたが、私の朧氣に憶《おぼ》えてゐる所では、藤野さんもよく二人の上の兒に苛責《いぢめ》られてゐた樣であつた。何時《いつ》か何處かで叩かれてゐるのを見た事もある樣だが、それは明瞭《はつきり》しない。唯一度私が小さい桶を擔いで、新家の裏の井戸に水汲に行くと、恰度《ちやうど》其處の裏門の柱に藤野さんが倚懸《よりかゝ》つてゐて、一人|潸々《さめ/″\》と泣いてゐた。怎《どう》したのだと私
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