》よりは少し小《こ》つ酷《ぴど》く譴《や》られたのでな。――俺《わし》のやうな耄碌《まうろく》を捕まへてからに、ヘルバロトが何うの、ペスタ何とかが何うの、何段教授法だ児童心理学だと言つたところで何うなるつてな。いろはのい[#「い」に白丸傍点]は何う教へたつていろはのい[#「い」に白丸傍点]さ。さうでせう、雀部さん? 一二《いんに》が二は昔から一二が二だもの。………』
女教師は慌《あわて》て首を縮《すく》めて、手巾《ハンケチ》で口を抑へた。
『まあさ、さう笑ふものではない。老人《としより》の愚痴は老人の愚痴として聞くものですぞ。――いや、先生方の前でこんな事を言つちや済まないが、――まま、そ言つたやうな訳でね、停車場から出ると突然《いきなり》お芳茶屋へ飛込んだものさ。ははは。』
『解つた、解つた。そして酔つて了つて、誰かに持つて行かれたかな?』と雀部は煙草入を衣嚢《かくし》に蔵ひながら笑つた。
『いやいや。』目賀田は骨ばつた手を挙げて周章《うろた》へて打消した。『誰が貴方、犬ででもなけれあ、あんな古帽子《ふるシヤツポ》を持つて行くもんですかい。冠つて出るには確に冠つて出ましたよ。それ、
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