からまた半里《はんみち》も斯うして上つて来た。いやもう、これからもう雀部さんと一緒には歩かない。』
『ははは。』と多吉は笑つた。
『然しまあ可かつた。彼処に橋が有つたら、危くお二人を此処に置去りにするところでしたよ。』
『私はもう黙つてる。何うも四方八方へ私が済まない事になつた。』と雀部は笑ひながら頭を掻いた。
『ところで、何方《どなた》か紙を持つてませんかな? 俺は今まで耐《こら》へて来たが………一寸皆さんに待つて貰つて。』
 紙は松子の袂から出た。
『少し臭いかも知れないから、も少し先へ行つて休んでて下さい。今井さん、これ頼みます。』
 さう言つて目賀田は蝙蝠傘《かうもりがさ》を多吉に渡し、痛い物でも踏むやうな腰付をして、二三間離れた橋の袂の藪陰に蹲《つくば》つた。禿げた頭だけが薄《うつ》すりと見えた。
『置去りにしますよ、目賀田さん。』
 さう雀部は揶揄《からか》つた。然し返事はなかつた。
 四人は橋を渡つた。そして五六間来ると其処等の山から切出す花崗石《みかげいし》の石材が路傍に五つ六つ転《ころが》してあつた。四人はそれぞれ其上に腰掛けた。
『ああ疲れた。』
 校長はまた言つた
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