しく貴方《あんた》と一緒に先に来れば可かつた。』へとへとに疲れたやうな目賀田の声がした。
『いやもう、狐なら可いが、雀部さんに魅《つま》まれてさ。』
『それはもう言ひつこなし。降参だ、降参だ。』と雀部がいふ。
其の内に三人とも橋の上に来た。
『ああ疲れた。』校長は欄干に片足を載せて腰かけた。『矢沢さん、どうも済みませんでした。』
『いいえ。何うなすつたのかと思つて。』
『真個に済みませんでしたなあ。』と雀部は言つた。『多分もう学校へ帰つてオルガンでも弾いてらつしやるかと思つた。』
『今井さん、まあ聞いて下さい。』目賀田老人は腰を延ばしながら訴へるやうな声を出した。『………彼処《あすこ》で、止せば可いのに可加減《いいかげん》飲んでね。雀部さん達はまだ俺《わし》より若いから可いが、俺はこれ此の通りさ。そしたら雀部さんが、近路があるから其方を行つて、貴方方に追付かうぢやないかと言ふんだものな。賛成したのは俺も悪いが、それはそれは酷い坂でね。剰《おまけ》に辛《やつ》と此の川下へ出たら、何うだえ貴方《あんた》、此間《こなひだ》の洪水《みづまし》に流れたと見えて橋が無いといふ騒ぎぢやないか。それ
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