だらう。」と、多吉は可笑く思つた。が、彼の予期したやうな笑ひは誰の口からも出なかつた。
稍《やや》あつて雀部は、破れた話を繕ふやうに、
『すると何ですね。私は二番目に死ぬんですね。厭だなあ。あははは。』
『今井さんも今井さんだ。』と、目賀田は不味《まづ》い顔をして言ひ出した。『俺のやうな老人《としより》は死ぬ話は真平《まつぴら》だ。』
青二才の無礼を憤《いきどほ》る心は充分あつた。
『さう一概に言ふものぢやない、目賀田さん。』雀部は皆の顔を見廻してから言つた。『私は今井さんのやうな人は大好きだ。竹を割つたやうな気性で、何のこだはりが無い。言ひたければ言ふし、食ひたければ食ふし………今時の若い者は斯《か》うでなくては可けない。実に面白い気性だ。』
『そ、そ、さういふ訳ぢやないのさ。雀部さん、貴方《あんた》のやうに言ふと角が立つ。俺《わし》も好きさ。今井さんの気性には俺も惚れてゐる。………たゞ、俺の嫌ひな話が出たから、それで嫌ひだと言つたまでですよ。なあ今井さん、さうですよなあ。』
『全く。』校長が引取つた。『何ももう、何もないのですよ。』
『困つた事になりましたねえ。』
さう言ふ多
前へ
次へ
全51ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング