雑木山芝山が、逶《うね》り※[#「二点しんにょう+施のつくり」、第3水準1−92−52]《くね》つた路に縫はれてゐた。然し松子の足を困らせる程には峻しくもなかつた。足音に驚いて、幾羽の雉子が時々藪蔭から飛び立つた。けたたましい羽音は其の度何の反響もなく頭の上に消えた。
雑木の葉は皆|触《さは》れば折れさうに剛《こはば》つて、濃く淡く色づいてゐた。風の無い日であつた。
芝地の草の色ももう黄であつた。処々に脊を出してゐる黒い岩の辺《ほとり》などには、誰も名を知らぬ白い小い花が草の中に見え隠れしてゐた。霜に襲はれた山の気がほかほかする日光の底に冷たく感じられた。校長は、何と思つたか、態々《わざわざ》それ等の花を摘み取つて、帽子の縁に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して歩いた。
目賀田は色の褪せた繻子《しゆす》の蝙蝠傘を杖にして、始終皆の先に立つた。物言へば疲れるとでも思つてゐるやうに言葉は少かつた。校長と雀部が前になり後になりして其の背後《うしろ》に跟《つ》いた。二人の話題は、何日《いつ》も授業批評会の時に最も多く口を利く××といふ教師の噂であつ
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