+施のつくり」、第3水準1−92−52]《のたく》つてゐた。ちらとそれを見乍ら智惠子は室に入つて、『マア臥床《おとこ》まで延べて下すつて、濟まなかつたわ、小母《をば》さん。』
『何の、先生。』と笑顏を見せて、『面白う御座んしたでせう?』
『え……。』と少し曖昧に濁して、『私疲れちやつたわ。』と邪氣《あどけ》なく言ひ乍ら、袴も脱がずに坐る。
『誰方が一番お上手でした?』
『皆樣お上手よ。私なんか今迄餘り歌留多も取つた事がないもんですから、敗けて許り。』と莞爾《につこり》する。ほつれた髮が頬に亂れてる所爲か、其顏が常よりも艶に見えた。
成程智惠子は遊戯などに心を打込む樣な性格でないと思つたので、お利代は感心した樣に、『然うでせうねえ!』と大きい眼をパチ/\する。
それから二人は、一時間前に漸々《やう/\》寢入つたといふ老女の話などをしてゐたが、お利代は立つて行つて、今日凾館から來たといふ手紙を持つて來た。そして、
『先生、怎うしたものでせうねえ?』と愁はし氣な、極り惡氣な顏をして話し出した。其手紙はお利代の先夫からである。以前にも一度來た。返事を出さなかつたので又來た。梅といふ子が生れ
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