…私の事は誤解してらつしやるわね!』
然う言つて、突然靜子の膝に突伏した。
『あら、貴女《あなた》の事ツて何《なに》?』
二
二人は暫時《しばし》言葉が無かつた。
靜子はそれを、屹度兄の信吾の事と察した。が、兄の事を思ふだけに、何と訊いて可いか解らなかつた。
稍あつてから、『え? 何の事私が誤解してるツて?』と靜子が又言ふ。
『言はずに置くわ、私。』と、思ひ切り惡く言つて、清子は漸く首を上げる。
『あら何うして?』
『兄の事……ぢやなくつて?』
清子は羞し氣に俯向《うつむ》いた。
『清子さん、私何も貴女の事惡くなんか思つてやしなくつてよ。』
『あら然《さ》うぢやなくつてよ。それは私だつて能く知つててよ。』
二人は懷し氣に眼を見合せた。
『私此の家に嫁《き》た事、貴女《あなた》可怪いと思つたでせう?』と稍あつて清子は極り惡相に言つた。
『でもないわ……今になつては。』と、靜子は心苦し氣である。靜子は、あの事あつて以來兄信吾の心が解りかねた。そして、その兄の不徳を、今一つ聞かねばならぬといふ氣がすると、流石に兄妹であれば辛くない譯に行かぬ。が、又、目の前の清子を
前へ
次へ
全201ページ中197ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング