盆踊を見に?』
『は、……まアお茶でも召し上つて……』
『直ぐ被行《いらつしや》いな、智惠子さん。何か御用でも有つて?』
と靜子も促す。
『否《いゝえ》。』
『行きませう! 僕は盆踊は生れて初めてなんです。』
と、吉野はもう戸外へ出る。
 で、智惠子は一寸奧へ行つて、帶を締直して來て、一緒に往來に出た。
 樺火は少し頽《すた》れた。踊がもう始まつたのであらう。太皷の音は急に高くなつて、調子に合つてゐる。唄の聲も聞える。人影は次第々々にその方へながれて行く。
 提灯を十も吊した加藤醫院の前には大束の薪がまだ盛んに燃えてゐて、屋内は晝の如く明るく、玄關は開け放されてゐる。大形の染の浴衣に水色縮緬をグル/\卷いた加藤を初め、清子、藥局生、下女、皆玄關に出て往來を眺めてゐた。
『やア、皆樣お揃ひですナ。』と、加藤から先づ聲をかける。
『お涼みですか。』と吉野が言つて、一行はゾロ/\と玄關に寄つた。
『Guten《グーテン》[#「Guten」は底本では「Cuten」] Abend《アベンド》, Herr《ヘル》 Yosino《ヨシノ》! ハハヽヽヽ。』と、近頃通信教授で習つてるといふ獨逸語を使つ
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