と、その吉野にも顏を見せたくなかつた。
室に籠つたり、臺所へ行つたり、庭に出たり、兎角して日も暮れかゝつた。信吾はそれでも歸つて來ない。夕方から一緒に盆踊を見に行く筈だつたのだが。
晩餐の時、媒介者《なかうど》が今夜泊るのだと叔母から話された。信吾は全く暗くなつても歸らぬ。母お柳の勸めで、兄とは町へ行つて逢ふことにして、靜子は吉野と共に妹達や下女を伴れて踊見物に出ることになつた。
二
丁度鶴飼橋へ差掛つた時、圓い十四日の月がゆら/\と姫神山の上に昇つた。空は雲一片なく穩かに晴れ渡つて、紫深く黝んだ岩手山が、くつきり夕照の名殘の中に浮んでゐる。
仄りと暗い中空には、弱々しい星影が七つ八つ、青ざめて瞬いてゐた。月は星を呑んで次第/\に高く上る。町からはもう太鼓の響が聞え出した。
たとへ何を言つたとて妹共には解る筈がない。吉野と肩を並べて歩みを運ぶ靜子の心は、言ふ許りなく動悸《ときめ》いてゐた。家には媒介者《なかうど》が來てゐる。松原との縁談は靜子の絶對に好まぬ所だ。その話の成行《なりゆき》が恁《か》うして歩いてゐ乍らも心に懸らぬではない。否、それが心に懸ればこそ、
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