歸つた。それは他ではない、信之の次男、靜子とは一歳劣りの弟の、志郎といふ士官候補生だ。
 志郎は兄弟中の腕白者、お柳の氣には餘り入らぬが、父の信之からは此上なく愛されてゐる。靜子と縁談の持上つてゐる松原家の三男の狷介《けんすけ》とは小さい時からの親友で、一緒に陸軍に志し試驗も幸ひと同時に及第して士官學校に入つた。一日から二十日間の休暇を一週間許り仙臺に遊んで、確《しか》とした前知らせもなく歸つて來たのだ。
 或る日、母のお柳は志郎を呼んで、それとなく松原中尉の噂を訊いてみた。その返事は少からずお柳を驚かせた。
『松原の政治か! 彼奴ア駄目だよ、阿母樣、狷介なんかも兄貴に絶交して遣らうなんて云つてゐた。』
『奈何《どう》してだい、それはまた?』
『奈何してつて、那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》馬鹿はない。それや評判が惡いよ、此年の春だつけかなア、下宿してゐた素人屋の娘を孕《はら》ませて大騒ぎを行《や》つたんだよ。友人なんか仲に入つて百五十圓とか手切金を遣つたそうだ。那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2
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