ですからね、惡いと思つたけど私立つて聞いたことよ。そしたら、(結婚といふものは戀愛によつて初めて成立するもので、他から壓制的に結びつけようとするのは間違だ。)なんて、それあ眞面目よ。すると祖母さんが、(あああゝ然うだらうともさ。)が可笑《をか》しいぢやありませんか。壓制的なんて祖母さんに解るもんですかねえ。ホホホヽヽ。』
『そして奈何《どう》した。』
『奈何もしやしないけど、面白かつたわ。そして折角祖父さん許り攻撃してるのよ。舊時代の思想だの何のつてね……お父さんやお母さんの事は言へないもんだから。』
『フム、然うか。……それで奈何《どう》する氣なんだらう、今後。』
『南米に行きたいんですつて。』
『南米に? そんな事で學校も廢《よ》したんだな。』
『それ許りぢやないわ。今年卒業するのでしたのを落第したんですもの。』
『中學も卒業せずに南米に行つたつて奈何《どう》なるもんか。それに旅費だつて大分|費《かゝ》る。』
『全體で二百圓あれア可《いゝ》んですつて。』
『何處から出す積りだらう。家ぢや出せまいし……。』
『出せないことは無いと思ふわ。』
『だつて餘り無謀な計畫だ。』
『……ですけ
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