麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》!』と智恵子も眸を据ゑた。
『アラ、鮎釣《あゆかけ》には那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]|扮装《なり》して行くわ、皆《みんな》。……昌作さんは近頃毎日よ。』
と言つてる時、思ひがけなくも轢々《ごろごろ》といふ音響《ひびき》が二人の足に響いた。
一台の俥が、今しも町の方から来て橋の上に差懸つたのだ。二人は期せずして其《その》方《はう》に向いたが、
『アラ!』と静子は声を出して驚いて忽ち顔を染めた。女心は矢よりも早く、己《おの》が服装《みなり》の不行儀《ふしだら》なのを恥ぢたので。
(五)の四
近《ちかづ》く俥の音は遠雷の如く二人の足に響いて、吊橋は心持揺れ出した。
洋服姿の俥上の男は、麦藁帽の頭を俯向《うつむ》けて、膝の上の写真帖《スケツチブツク》に何やら書いてゐる――一目見て静子は、兄の話で今日あたり来るかも知れぬと聞いた吉野が、この人だと知つた。好摩《かうま》午後三時着の下り列車で着いて、俥だから線路伝ひの近道は取れず、態々《わざわざ》本
前へ
次へ
全217ページ中93ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング