》とはなく中絶してゐた英語の独修を続ける事や、最も所好《すき》な歴史を繰返して読む事や、色々あつたが、信吾の持つて帰つた書《ほん》を可成《なるべく》沢山借りて読まうといふのも其《その》一《ひとつ》であつた。
今日は折柄の日曜日、読了へたのを返して何か別の書《ほん》を借りようと思つて、まだ暑くならぬ午前の八時頃に小川家を訪ねたのだ。
直ぐ帰る筈だつたのが無理に引留められて、昼餐《ひるめし》も御馳走になつた。午後はまた余り暑いといふので、到頭四時頃になつて、それでも留めるのを漸くに暇乞して出た。田舎の素封家《ものもち》などにはよくある事で、何も珍しい事のない単調な家庭では、腹立しくなるまで無理に客を引き留める、客を待遇《もてな》さうとするよりは、寧ろそれによつて自分らの無聊《ぶれう》を慰めようとする。
平生《いつも》の例で静子が送つて出た。糊も萎《な》えた大形の浴衣《ゆかた》にメリンスの幅狭い平常帯《ふだんおび》、素足に庭下駄を突掛けた無雑作な扮装《なり》で、己が女傘《かさ》は畳んで、智恵子と肩も摩れ/\に睦しげに列んだ。智恵子の方も平常着ではあるが、袴を穿いてゐる。何時しか二人はモ
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