づか》ら嘲る様な、或は又、対手を蔑視《みくび》つた様な笑が浮んでゐた。
 清子と静子は、霎時《しばし》は二人が立留つてゐるのも気付かぬ如くであつた。清子は初から物思はし気に俯向《うつむ》いて、そして、物も言はず、出来るだけ足を遅くしようとする。
『済まなかつたわね、清子さん、恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》に遅くしちやつて。』
と、モ少し前《さき》に静子が言つた。
『否《いいえ》。』と一言答へて清子は寂しく笑つた。
『だつて、お宅《うち》ぢや心配してらつしやるわ、屹度。尤も慎次さんも被来《いらしつ》たんだから可《いい》けど……。』
『静子さん!』と、稍あつてから力を籠めて言つて、眤《じつ》と静子の手を握つた。
『恁《か》うして居たいわ、私。……』
『え?』
『恁うして! 何処までも、何処までも恁うして歩いて……。』
 静子は訳もなく胸が迫つて、握られた手を強く握り返した。二人は然し互ひに顔を見合さなかつた。何処までも恁うして歩く! 此美しい夢の様な語《ことば》は華かな加留多の後の、疲れて※[#「目+夢」の「夕」に代えて「目」、2
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