けたのは例の叔母で、月の初めに来た時、お柳からの密かの依頼《たのみ》で、それとなく松原家を動かし、媒介者《なかうど》を同伴して来るまでに運んだのであるが、来て見るとお柳の態度は思ひの外、対手の松原中尉の不品行(志郎から聞いた)を楯に、到頭破談にして了つた。
 静子は、何処といふことなく体が良くなかつた。加藤は神経衰弱と診察した。そして、毎日散歩ながら自分で薬取に行く様に勧めた。で、日毎に午前九時頃になると、何がなしに打沈んだ顔をした静子が、白ハンケチに包んだ薬瓶を下げて町にゆく姿が、鶴飼橋の上に見られた。
 そして静子は、一時間か二時間、屹度《きつと》清子と睦しく話をして帰る。
 或日の事であつた。二人は医院の裏二階の瀟洒《さつぱり》した室で、何日《いつ》もの様に吉野の噂をしてゐた。
 静子は、怎《ど》うした機会《はずみ》からか、吉野と初めて逢つた時からの事を話し出して、そして、かの写生帖の事までも仄めかした。
 清子は熱心にそれを聞いてゐた。
『静子さん。』と清子は、眤《じつ》と友の俯向いた顔を見ながら、しんみりした声で言つた。『私よく知つてるわ、貴女の心を!』
『アラ!』と言つて静
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