ぬ様に縁側伝ひに自分の室に行く。家中モウ寝て了つたと見えて、森としてゐた。
 と、離室《はなれ》に続く縁側に軽い足音がして、静子が出て来た。四辺《あたり》は薄暗い。
『アラ兄様《にいさん》、遅かつたわねえ。何処に居たんですか、今迄?』
『何処でも可《い》いぢやないか!』と、声は低く、然し慳貪《けんどん》だ。
『マア!』
 信吾は、わが仇《かたき》の吉野の室《へや》に妹が行つてゐたと思ふと、抑へきれぬ不快な憤怒《いかり》が洪水の様に脳に溢れた。
『貴様こそ何処に行つてるんだ? 夜《よる》夜中人が寝て了つてから!』
 静子は驚いて目を丸くして立つてゐる。それが、何か厳しく詰責でもされる様で、信吾の憤怒《いかり》は更に燃える。
『莫迦野郎! 何処に行つてるんだ?』と言ふより早く一つ静子を擲《なぐ》つた。
 静子は矢庭に袂を顔にあてた。
『兄様……其様《そんな》……。』
『此方へ来い。』と、信吾は荒々しく妹の手を引張つて、自分の室に入るとドツと突倒した。
『此畜生《こんちくしやう》! 親や兄の眼を晦《くら》まして、…………』
『ワツ。』と静子は倒れた儘で声をあげた。先刻《さつき》町から帰つてか
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