から出た信吾の心は、強い屈辱と憤怒と、そして、何か知ら弱い者を虐めてやつた時の様な思ひに乱れてゐた。恁《か》うなると彼は、今日自分の遣つた事は、予《あらか》じめ企んで遣つたので、それが巧く思ふ壺に嵌《はま》つて智恵子に自白さしたかの様に考へる。我と我を軽蔑《さげす》まうとする心を、強ひて其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》風に考へて抑へて見た。
 信吾は、成べく平静な態度《ふり》をして、その足で直ぐ加藤医院を訪ね、学校を訪ねた。彼は夕方までに帰つて、吉野や妹共と一緒に踊見物に出る約束を忘れてはゐなかつた。が、何の意味もなく、フンと心で笑つてそれを打消した。
 其時の信吾は、平常《ふだん》よりも余程《よつぽど》機嫌が可い様に見えた。然し彼は、詰らぬ世間話に大口を開いて笑へば笑ふ程、何か自分自身を嘲つてる様な気がして来て、心にも無い事を一口言へば一口言ふだけ、胸が苛立つて来る。高い笑声《わらひごゑ》を残して、彼は遂に学校から飛び出した。
 モウ日暮近い頃であつた。
 自嘲の念は烈しく頭脳《あたま》を乱した。何故《なぜ》那※[#「麾」の「
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