くやつて来ましたね。』
『貴方が昼寝してるだらうから、起して上げようと思つて。』
『屹度《きつと》神山さんが来ると思つたから、恁《か》うしてチヤンと起きて待つてたんですよ。』
『其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》事|誰方《どなた》から習つて? ホホヽヽ、マア何といふ呆然《ぼんやり》した顔! お顔を洗つて被来《いらつしや》いな。』と言ひ乍ら、遠慮なく座つた。
『適《かな》はない、適はない。それぢや早速仰せに従つて洗つて来るかな。』
『然うなさいな。モウ日が暮れますから。』と言つて、無造作に其処に落ちてゐる小形の本を取る。
 立ち上つた信吾は、
『ア、其奴《そいつ》ア可《い》けない。』と、それを取返さうとする。
 娘らしい、態《さま》をして、富江は素早く其手を避けた。
『何ですの、これ? 小説?』
 黄《きいろ》い本の表紙には、[#ここから横組み]“True《ツルー》 Love《ラヴ》”[#ここで横組み終わり]と書かれた。文科の学生などの間に流行《はやつ》てゐる密輸入のアメリカ版の怪しい書《ほん》だ。
『ハツハハ。』と信吾は手を引込ま
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