に征服される様に感じてゐる。それから脱れ様として恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》事を言ふのだ。『偽善です! 人が善といふ名の付く事をする、その動機は二つあります。一つは自分の感情の満足を得る為、畢竟《つまり》自分に甘える為、も一つは他《ひと》に甘える為です。』
『貴方は――』
と言ふより早く、智恵子の手は突然《いきなり》男の肩に捉つた。強烈《はげし》い感動が、女の全身に溢れた。強く/\其顔を男の二の腕に摩《こす》り付けて、
『貴方は……貴方は……』
と言ひ乍ら、火の様な熱い涙が滝の如く、男の肌に透る。
吉野は礑《はた》と足を留《とど》めて、佶《きつ》と脣を噛んだ。眼も堅く閉ぢられた。
『ワア――』と、驚いた様に新坊が泣く。
はしたない事をした、といふ感じが矢の如く女の心を掠めた。と、智恵子は、モ一度、
『貴方は!』
と迸《ほとば》しる様に言つて、肩に捉つた手を烈しく男の首に捲いた。
『先生!』と、五六間|前方《さき》から女児等《こどもら》が呼ぶ。
『行きませう!』と男は促した。
『ハ。』と云ふも口の中。身も世も忘れた態《さま
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