の音も遠くなつた。熟した麦の香《か》が、暗い夜路に漂ようてゐる。
先に立つた女児等《こどもら》の心々は、まだ何か恐怖《おそれ》に囚はれてゐて、手に手に小い螢籠を携へて、密々《ひそひそ》と露を踏んでゆく。訳もなく歔欷《すすりあ》げてゐる新坊を、吉野は確乎《しつか》と懐に抱いて、何か深い考へに落ちた態《さま》で、その後《あと》に跟《つ》いた。
智恵子は、片手に濡れた新坊の着物を下げて、時々心配顔に小供の顔を覗き乍ら、身近く吉野と肩を並べた。胸は感謝の情に充溢《いつぱい》になつてゐて、それで、口は余り利けなかつた。
『阿母様《おつかさん》!』
と、新坊は思出した様に時々呼んで、ワアと力なく泣く。
『モウ泣かないの、今阿母様の処へ伴れてつて下さるわ。ねえ、新坊|様《さん》、モウ泣かないの。』
と、智恵子は横合から頻《しきり》に慰《なだ》める。
『真箇《ほんと》に私、……貴方が被来《いらつしや》らなかつたら、私|奈何《どう》したで御座いませう!』
『其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》事はありません。』
『だつて私、万一《もしも》の事があ
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