ずに自活の途を急がねばならぬ。それだのに、何故|這※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》…………?
懊《じ》れに懊《じ》れて待つた其人の、遂に来なかつた失望が、冷かに智恵子の心を嘲つた。二度と這※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事は考へまい! と思ふ傍《かたはら》から、『矢張《やはり》女は全く放たれる事が出来ない。男は結局|孤独《ひとりぼつち》だ、死ぬまで。』と久子の兄に言つた其人の言葉などが思出された。書《ほん》を読む気もしない。学校へ行つてオルガンでも弾かうと考へても見た。ウツカリすると取留のない空想が湧く……。
日が暮れると、近所の女児共《をんなこども》が螢狩に誘ひに来た。案外気軽に智恵子はそれに応じて、宿の二人の小供をも伴れて出た。出る時、加藤の玄関が目に浮んだ。其処には数々の履物に交つて赤革の夏靴が一足脱いであつた。小川のお客様も来てゐると清子の言つたソノ時、智恵子は、ア、これだ! と其靴に目を留めたつけ!
村の螢の名所は二つ、何方《どつち》に為ようと智恵子が言出すと、小供らは
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