大硯君足下
石川啄木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)頷《うなづ》かれる
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まだ/\笑ひ足りない
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大硯君足下。
近頃或人が第二十七議會に對する希望を叙べた文章の中に、嘗て日清及び日露の兩戰役に當つて、滿場一人の異議もなく政府の計畫を翼贊して、以て擧國一致の範を國民に示した外に、日本の議會には今まで何の功績も無いと笑つてゐた。私のこの手紙も其處から出立する。私はこの或人の物凄い笑ひがまだ/\笑ひ足りないと思ふ。かう言へば足下には直ぐ私の心持が解るに違ひない。實際それは彼の兩戰役の際の我々の經驗を囘顧して見れば、誰にでも頷《うなづ》かれる事なのである。日清戰役の時は、我々一般國民はまだほんの子供に過ぎなかつた。反省の力も批評の力もなく、自分等の國家の境遇、立場さへ知らぬ者が多かつた。無論自分等自身の國民としての自覺などをもつてゐる者は猶更少なかつた。さういふ無知な状態に在つたからして、「膺《う》てや懲《こら》せや清國を」といふ勇ましい軍歌が聞えると、直ぐもう國を擧げて膺てや懲
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