せや清國をといふ氣になつたのだ。反省もない。批評もない。その戰爭の結果が如何《どん》な事になるかを考へる者すら無いといふ有樣だつた。さうして議會も國民と全く同じ事をやつたに過ぎないのである。それが其の次の大戰役になると、前後の事情が餘程違つて來てゐる。事情は違つて來てゐるが、然し議會の無用であつた事は全く前と同じである。日露戰爭に就いては、國民は既に日清戰爭の直ぐ後から決心の臍を堅めてゐた。宣戰の詔勅の下る十年前から擧國一致してゐた。さうして此の兩戰役共、假令議會が滿場心を一にして非戰論を唱へたにしたところで、政府も其の計畫を遂行するに躊躇せず、國民も其の一致した敵愾感情を少しでも冷却せしめられなかつたことは誰しも承認するところであらう。――大硯君足下。こんな事を言ふのは、お互ひ立憲國民として自ら恥づべき事ではあるが、然し事實は如何とも枉《ま》げがたい。日本の議會は或人々から議會としての最善の能力を盡したと認められた場合に於てさへ、よく考へて來れば、全くあつても無くても可いやうな事をしてゐたに過ぎないのである。
 尤も彼の兩戰役……日清、日露……の時は、少くとも國民から恨まれるやうな事
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