だけは爲出かさなかつたのであるから、平生善くない事ばかりやつてゐる議會に對しては、賞《ほ》めて呉れても可ゝかも知れない。然しそれも、考へて見ると隨分危險な譯である。戰爭といふものは、何時の場合に於ても其の將に起らんとするや既に避くべからざる勢ひとなつてゐるものである。さうして其の時に當つては、外の事とは違つて一日一時間の餘裕もないものである。既に開戰された後にあつては猶更である。隨つて其處にはもう言議の餘地がない。假令《たとへ》言議を試みる者があるにしても、責任を以て國家を非常の運命に導いた爲政者にはもうそんな事に耳を傾けてゐる事が出來ない。是が非でも遣る處までは遣り通さなければならぬ。又さうする方が、勝利といふものを豫想し得る點に於て、既に避くべからずなつたものを避ける爲に起る損害を敢てするよりは如何なる政治家にもやり易いのだ。然し戰爭は決して地震や海嘯《つなみ》のやうな天變地異ではない。何の音沙汰も無く突然起つて來るものではない。これ此の極めて平凡なる一事は今我々の決して忘れてはならぬ事なのである。歴史を讀むと、如何なる戰爭にも因あり果あり、恰も古來我が地球の上に戰はれた戰爭が、一
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