六七にしか成りません。』
『少ないな。』と、校長は首を傾げた。
『何有《なあに》、毎年今日はそれ位なもんでごあんす。』と、十年もこの學校にゐる土地者《ところもの》の秋野が喙を容れた。
『授業の初まる日になれば、また二十人位ア來あんすでア。』
『少ないなア。』と、校長はまた同じ事を言ふ。
『奈何です。』と健は言つた。『今日來なかつたのへ、明日明後日の中に役場から又督促さして見ては?』
『何有《なあに》、明々後日《やのあさつて》にならば、二十人は屹度來あんすでア、保險附だ。』と、秋野は鉛筆を削つてゐる。
『二十人來るにしても、三十八名に二十……殘部《あと》十五名の不就學兒童があるぢやありませんか?』
『督促しても、來るのは來るし、來《こ》ないのは來なごあんすぜ。』
『ハハヽヽ。』と健は譯もなく笑つた。『可いぢやありませんか、私達が草鞋を穿いて歩くんぢやなし、役場の小使を歩かせるのですもの。』
『來ないのは來ないでせうなア。』と、校長は獨語の樣に意味のないことを言つて、卓の上の手焙《てあぶり》の火を、煙管で突ついてゐる。
『一學年は並木さんの受持だが、御意見は奈何ですか?』
然う言ふ健の顏
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