い事ですけれど、私の方では前々から決めてゐた事でもあり、且つ、何が何でも一旦出したのは、取るのは厭ですよ。それも私一人の為めに村教育が奈何《どう》の恁《か》うのと言ふのではなし、却《かへつ》てお邪魔をしてる様な訳ですからね。』と言つて、些《ちよつ》と校長に流盻《よこめ》を与《く》れた。
『マ、マ、然うは言ふもんでア無えでばサ。前々から決めておいた事は決めて置いた事として、茲《ここ》はマア村の頼みを訊いて呉れても可いでアねえすか? それも唯、一週間か其処いら待つて貰ふだけの話だもの。』
『兎に角お返ししあんす。』と言つて、安藤は手持無沙汰に自分の卓《つくゑ》に帰つた。
『安藤先生。』と、東川は再《また》喰つて掛る様に呼んだ。『先生もまた、も少し何とか言方が有りさうなもんでアねえすか? 今の様でア、宛然《まるで》俺に言はれた許りで返す様でアねえすか? 先生には、千早先生が何《ど》れだけこの学校に要のある人だか解らねえすか?』
『ハ?』と、安藤は目を怖々《おづおづ》さして東川を見た。意気地なしの、能力《はたらき》の無い其顔には、あり/\と当惑の色が現れてゐる。
 と、健は、然《さ》うして擦《
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