つたのかい? 子供を学校に出せといふ書付が?』
『ハイ。来るにア来ましたども、弟の方のな許りで、此児《これ》(と顎で指して、)のなは今年ア来ませんでなす。それでハア、持つて来《こ》なごあんさす。』
『今年は来ない? 何だ、それぢや其児は九歳《ここのつ》か、十歳《とを》かだな?』
『九歳《ここのつ》。』と、その松三郎が自分で答へた。膝に補布《つぎ》を当てた股引を穿いて、ボロ/\の布の無尻《むじり》を何枚も/\着膨れた、見るから腕白らしい児であつた。
『九歳なら去年の学齢だ。無い筈ですよ、それは今年だけの名簿ですから。』
『去年ですか。私《わたし》は又、其点《そこ》に気が付かなかつたもんですから……』と、孝子は少しきまり悪気《わるげ》にして、其児の名を別の帳簿に書入れる。
『それぢや何だね、』と、健は再《また》老女の方を向いた。『此児《これ》の弟といふのが、今年|八歳《やつつ》になつたんだらう。』
『ハイ。』
『何故《なぜ》それは伴れて来ないんだ?』
『ハイ。』
『ハイぢやない。此児は去年から出さなけれアならないのを、今年まで延したんだらう。其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けた
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