、54−下−20]々《さやさや》と声あつて、神の笑《ゑま》ひの如く、天上を流れた。――朝風の動き初《そ》めたのである。と、巨人は其|被《き》て居る金色の雲を断《ちぎ》り断つて、昔ツオイスの神が身を化《け》した様な、黄金の雨を二人の上に降らせ始めた。嗚呼、嗚呼、幾千万片と数の知れぬ金地の舞の小扇が、縺《もつ》れつ解けつヒラ/\と、二人の身をも埋むる許り。或ものは又、見えざる糸に吊らるる如く、枝に返らず地に落ちず、光《つや》ある風に身を揉ませて居る。空に葉の舞、地の人の舞! 之を見るもの、上なるを高しとせざるべく、下なるを卑《ひく》しとせざるべし。黄金の葉は天上の舞を舞ふて地に落つるのだ。狂人繁と狂女お夏とは神の御庭に地上の舞を舞ふて居るのだ。
突如、梵天《ぼんてん》の大光明が、七彩|赫灼《かくしやく》の耀《かがやき》を以て、世界|開発《かいほつ》の曙の如く、人天《にんてん》三界を照破した。先づ、雲に隠れた巨人の頭《かしら》を染め、ついで、其金色の衣を目も眩《くらめ》く許《ばかり》に彩り、軈《やが》て、普《あま》ねく地上の物又物を照し出した。朝日が山の端を離れたのである。
見よ、見よ、
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