としざり》をする。――此名状し難き道化た挙動は、自分の危く失笑せむとするところであつた。
殆んど高潮に達した好奇心を以て、自分は彼の睨んで居る龕の内部を覗いた。
今迄|毫《がう》も気が付かなんだ、此処にも亦一個の人間が居る。――男ではない。女だ。赤縞の、然し今はただ一色《ひといろ》に穢《よご》れはてた、肩揚のある綿入を着て、グル/\巻にした髪には、よく七歳《ななつ》八歳《やつ》の女の児の用ゐる赤い塗櫛をチヨイと※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して、二十《はたち》の上を一つ二つ、頸筋は垢で真黒だが、顔は円くて色が白い…………。
これと毫厘《がり》寸法の違はぬ女が、昨日の午過《ひるすぎ》、伯母の家の門に来て、『お頼《だん》のまうす、お頼《だん》のまうす。』と呼んだのであつた。伯母は台所に何か働いて居つたので、自分が『何家《どこ》の女客ぞ』と怪しみ乍ら取次に出ると、『腹が減つて腹が減つて一足も歩かれなエハンテ、何卒《どうか》何か……』と、いきなり手を延べた。此処へ伯母が出て来て、幾片かの鳥目を恵んでやつたが、後で自分に恁《かう》話した。――アレは
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