目についたのは、雪の深いことと地に達する氷柱《つらら》のあつた事、凍れるビールを暖炉《ストーブ》に解かし、鶏を割いての楽しき晩餐は、全く自分の心を温かにした。剰《あまつ》さへ湯加減程よき一風呂に我が身体も亦車上の労れを忘れた。自分は今、眠りたいと云ふ外に何の希望も持つて居ない。眠りたい、眠りたい……実際モウ眠くなつたから、此第一信の筆を擱く事にする。(午後九時半)
(第二信) 旭川にて
一月二十日。曇。
午前十時半岩見沢発二番の旭川行に乗つた。同室の人唯四人、頬髯逞しい軍人が三十二三の黒いコートを着た細君を伴れて乗つて居る。新聞を買つて読む、札幌小樽の新聞は皆新夕張炭鉱の椿事を伝へるに急がしい。タイムスの如きは、死骸の並んでる所へ女共の来て泣いてる様を書いた惨澹たる※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵まで載せて居る。此※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵を見て、軍人の細君は「マア」と云つた。軍人は唸る様に「ウウ」と答へた。
砂川駅で昼食。
ト見ると、右も左も一望の雪の中に姿淋しき雑木の林、其間々に雪を
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