を集めて呉れるといふ事に相談が纏つた。日の暮れるのが待遠でもあり、心配でもあつた。集つたのは女小供が合せて十二三人、それに大工の弟子の三太といふ若者、鍛冶屋の重兵衛。松太郎は暑いに拘らず木綿の紋付羽織を着て、杉の葉の蚊遣の煙を渋団扇で追ひ乍ら、教祖島村|美支子《みきこ》の一代記から、一通《ひととほり》の教理まで、重々しい力の無い声に出来るだけ抑揚をつけて諄々《くどくど》と説いたものだ。
『ハハア、そのお人も矢張りお嫁様に行つたのだなツす?』と、乳児《ちのみご》を抱いて来た嬶《かかあ》が訊いた。
『左様さ。』と松太郎は額の汗を手拭で拭いて、『お美支《みき》様が恰度十四歳に成られた時にな、庄屋敷村のお生家《うち》から三昧田村《さんまいだむら》の中山家へ御入輿《おこしいり》[#「御入輿《おこしいり》」はママ]に成つた。有難いお話でな。その時お持になつた色々の調度、箪笥、長持、総てで以て十四|荷《か》――一荷は一担《ひとかつ》ぎで、畢竟《つまり》平《ひら》たく言へば十四担ぎ有つたと申す事ぢや。』『ハハア、有難い事だなツす。』と、意外《とんだ》ところに感心して、『ナントお前様、此地方《ここら》で
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