て戦勝を伝ふるや、日本人の肩幅|日益日益《ひますひます》広きを覚え候ふと。鳴呼人よ、東海君子国の世界に誇負《こふ》する所以《ゆゑん》の者は、一に鮮血を怒涛に洗ひ、死屍を戦雲原頭に曝《さら》して、汚塵《をぢん》濛々《もうもう》の中に功を奏する戦術の巧妙によるか。充実なき誇負は由来文化の公敵、真人の蛇蝎視《だかつし》する所に候。好んで洒盃に走り、祭典に狂する我邦人は或は歴史的因襲として、アルコール的お祭的の国民性格を作り出だしたるに候らはざるか。斯《こ》の千載一遇の好機会に当り、同胞にして若《も》し悠久の光栄を計らず、徒《いたづ》らに一時の旗鼓《きこ》の勝利と浮薄なる外人の称讃に幻惑するが如き挙に出でしめば、吾人《ごじん》は乃ち伯叔と共に余生を山谷《さんこく》の蕨草《けつさう》に托し候はむかな。早熱早冷の大に誡《いま》しむべきは寧《むし》ろ戦呼に勇む今の時に非ずして、却《かへ》りて戦後国民の覚悟の上にあるべくと存候。万邦《ばんはう》環視《くわんし》の中に一大急飛躍を演じたる吾国は、向後《かうご》如何なる態度を以てか彼等の注目を迎へむとする。洋涛万里《やうたうばんり》を破るの大艦と雖《いへ》
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