初めて見たる小樽
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)択《えら》び出《い》ず。

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相|率《ひき》いて
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 新らしき声のもはや響かずなった時、人はその中から法則なるものを択《えら》び出《い》ず。されば階級といい習慣といういっさいの社会的法則の形成せられたる時は、すなわちその社会にもはや新らしき声の死んだ時、人がいたずらに過去と現在とに心を残して、新らしき未来を忘るるの時、保守と執着と老人とが夜の梟《ふくろう》のごとく跋扈《ばっこ》して、いっさいの生命がその新らしき希望と活動とを抑制せらるる時である。人性本然の向上的意力が、かくのごとき休止の状態に陥ることいよいよ深くいよいよ動かすべからずなった時、人はこの社会を称して文明の域に達したという。一史家が鉄のごとき断案を下して、「文明は保守的なり」といったのは、よく這般《しゃはん》のいわゆる文明を冷評しつくして、ほとんど余地を残さぬ。
 予は今ここに文明の意義と特質を論議せむとする者ではないが、もし叙上のごとき状態をもって真の文明と称するものとすれば、
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