で聞直すと、
『あの遊蝶花とか言ふさうで御座います。』
『さうですか、これですかスヰイトピーと言ふのは。』
『お好きで被入《いらつしや》いますか?』
『さう!可愛らしい花ですね。』
 見ると、耳の根を仄《ほん》のり紅くしてゐる。私は其儘室に入らうとすると、何時の間にか民子が來て立つてゐて、
『島田さん、もう那※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《あんな》繪葉書無くつて?』
『ありません。その内にまた好いのを上げませう。』
『マア、お客樣に其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]事言ふと、母さんに叱られますよ。』と、姉が妹を譴《たしな》める。
『ハハヽヽヽ。』と輕く笑つて、私は室に入つて了つた。
『だつて、折角戴いたのは姉ちやんが取上げたんだもの…………』と、民子が不平顏をして言つてる樣子。
 眞佐子は、口を抑へる樣にして何か言つて慰めてゐた。
 私は毎日午後一時頃から社に行つて、暗くなる頃に歸つて來る。その日は歸途《かへり》に雨に會つて來て、食事に茶の間に行くと外の人は既う濟んで私一人|限《きり》だ。内儀は私に少し濡
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