れた羽織を脱がせて、眞佐子に切爐の火で乾《ほ》させ乍ら、自分は私に飯を裝《よそ》つて呉れてゐた。火に翳した羽織からは湯氣が立つてゐる。思つたよりは濡れてゐると見えて却々乾せない。好い事にして私は三十分の餘も内儀相手にお喋舌《しやべり》をしてゐた。
その翌日、私の妻が來た。既《も》う凾館からは引上げて小樽に來てゐるのであるが、さう何時までも姉の家に厄介になつても居られないので、それやこれやの打合せに來たのだ。私の子供は生れてやつと九ヶ月にしかならなかつたが、來ると直ぐ忘れないでゐて私に手を延べた。
が、心がけては居たのだが、空家《あきや》、せめて二間位の空間と思つても、それすらありさうになかつた。困つて了つて宿の内儀に話をすると、
『然うですねえ。それでは恁うなすつちや如何でせう。貴方のお室は八疊ですから、お家の見付かるまで當分此處で我慢をなさる事になすつては? さうなれば目形さんには別の室に移つて頂くことに致しますから。何で御座いませう、貴方方もお三人|限《きり》……?』
『まだ年老つた母があります。外にもあるんですが、それは今直ぐ來なくても可いんです。』
『マァ然うですか、阿
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