の飾紐を。』
『貰つたの。』とケロリとしてゐる。
『嘘ですよウ。其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]色はまだ貴女に似合ひませんもの、何で姉さんが上げるものですか?』
『眞箇《ほんと》。ホラ、今朝島田さんから戴いた綺麗な繪葉書ね、姉ちやんが、あれを取上げて奈何《どう》しても返さないから、代りに此を貰つたの。』
『そんなら可いけど、此間も眞佐アちやんの繪具を那※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《あんな》にして了うたぢやありませんか』
 私は列んでゐた農科大學生と話をし出した。
 それから、飯を濟まして便所に行つて來ると、眞佐子は例《いつも》の場所《ところ》に座つて、(其處は私の室の前、玄關から續きの八疊間で、家中の人の始終通る室だが、眞佐子は外に室がないので其處の隅ッコに机や本箱を置いてゐた。)編物に倦きたといふ態《ふう》で、片肘を机に突き、編物の針で小さい硝子の罎に插した花を突ついてゐた。豌豆の花の少し大きい樣な花であつた。
『何です、その花?』と私は何氣なく言つた。
『スヰイトピーです。』
 よく聞えなかつたの
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