日高なるアイヌの君の
行先ぞ気にこそかかれ。
ひょろひょろの夷希薇《いきび》の君に
事問へど更にわからず。
四日前に出しやりたる
我が手紙、未だもどらず
返事来ず。今の所は
一向に五里霧中《ごりむちゆう》なり。
アノ人の事にしあれば、
瓢然《へうぜん》と鳥の如くに
何処へか翔《かけ》りゆきけめ。
大《タイ》したる事のなからむ。
とはいへど、どうも何だか
気にかかり、たより待たるる。
北の方旭川なる
丈高き見習士官
遠からず演習のため
札幌に来るといふなる
たより来ぬ。豚鍋つつき
語らむと、これも待たるる。
待たるるはこれのみならず、
願くは兄弟達よ
手紙呉《く》れ。ハガキでもよし。
函館のたよりなき日は
何となく唯我一人
荒れし野に追放されし
思ひして、心クサクサ、
訳《わけ》もなく我がかたはらの、
猫の糞癪《しやく》にぞさわれ。
猫の糞可哀相《かはいさう》なり、
鼻下の髯、二分《ブ》程のびて
物いへば、いつも滅茶苦茶、
今も猶《なほ》無官の大夫、
実際は可哀相だよ。
札幌は静けき都、
秋の日のいと温かに
虻《あぶ》の声おとづれ来なる
南窓《ミナミマド》、うつらうつらの
我
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