少し曇《くも》れど、
秋の昼、日はほかほかと
丈《タケ》ひくき障子《しやうじ》を照し、
寝ころびて物を思へば、
我が頭ボーッとする程
心地よし、流離《りうり》の人も。
おもしろき君の手紙は
昨日見ぬ。うれしかりしな。
うれしさにほくそ笑みして
読み了《を》へし、我が睫毛《マツゲ》には、
何しかも露の宿りき。
生肌《ナマハダ》の木の香くゆれる
函館よ、いともなつかし。
木をけづる木片大工《コツパダイク》も
おもしろき恋やするらめ。
新らしく立つ家々に
将来の恋人共が
母《カア》ちゃんに甘へてや居む。
はたや又、我がなつかしき
白村に翡翠《ひすゐ》白鯨
我が事を語りてあらむ。
なつかしき我が武《ター》ちゃんよ、――
今様《イマヤウ》のハイカラの名は
敬慕するかはせみの君、
外国《とつくに》のラリルレ語《ことば》
酔漢《ヱヒドレ》の語でいへば
m...m...my dear brethren!――
君が文読み、くり返し、
我が心青柳町の
裏長屋、十八番地
ムの八にかへりにけりな。
世の中はあるがままにて
怎《どう》かなる。心配はなし。
我たとへ、柳に南瓜《かぼちや》
なった如、ぶらりぶら
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